Cars箱根のワインディング・ロードを走りながら「素性のいいクルマだなぁ」と、思った。【主要諸元(Z)】全長×全幅×全高:3940mm×1695mm×1500mm、ホイールベース2550mm、車両重量1000kg、乗車定員5名、エンジン1490cc直列3気筒DOHC(120ps/6600rpm、145Nm/4800〜5200rpm)、トランスミッション6MT、駆動方式FWD、タイヤサイズ185/60R15、価格187万1000円。1999年デビューの初代以来、第4世代を数える新型は、プラットフォームからパワートレインに至るまで一新している。「TNGA GA-B」と、呼ばれるBセグメント用のプラットフォームを使う第1弾がこのヤリスで、今後、このGA-Bのバリエーションが増えていくことをBセグメントというと、国際的にはフォルクスワーゲン「ポロ」とかプジョー「208」、あるいはルノー「ルーテシア」、日本車ではスズキ「スイフト」とかホンダ「フィット」とかのライバルがひしめく激戦区である。その激戦区を勝ち抜くために、ということが筆者の頭にあるせいだろうか、新型ヤリスはフランス車っぽいように思えるのだった。オムスビを飾り立てたみたいなカタチには好き嫌いがあるのではあるまいか。フロント マスクは深海魚っぽくもあり、グリルは風神雷神図屏風の雷神の口みたいである。そう思うと、和のテイストもそこはかとなく感じられる……というのは個人的な印象だとして、インテリアはクリーンで好ましい。試乗車のシート表皮はいかにも地味だけれど、かけ心地自体は悪くない。X、G、Zの3グレードのうち、Xはアナログ・メーター、それ以外は小径2眼のデジタル・メーターで、アナログ メーターだと時代が一気に遡る感がある。私的にはモダンなデジタルのほうを注文したいと思う。ギャラリーを見る15 Photos“フランス車みたいだ”と、私が主張するのは、デザインのことではない。運転していてのことである。ホイールベースは、ヴィッツを名乗っていた先代より40mm延びて2550 mmである。でも、3940×1695×1480mmという全長×全幅×全高は、ほとんど変わっていない。コンパクト カーとしてコンパクトであることにこだわっている。コンパクト カーのファンとしては大歓迎である。欧州仕様は全幅が1745mmあるのを、国内向けに50mm狭くしているのは、カローラなどにも見られるトヨタの最近の手法だ。全幅1.7m、いわゆる5ナンバー枠を超えると、売れ行きが悪くなる、とトヨタは考えているのだ。TNGA第4弾となるGA-Bプラットフォームは、例によって軽量、高剛性、低重心を合言葉に開発された。結果、重量は先代に比べて50kg軽く(ハイブリッドX同士の比較)、ねじり剛性は30%以上アップ、重心高は15mmダウンしているという。試乗車の1.5 Z(6MT)の車検証の車重は1010kg。現行ポロがいまや全長4mを超え、3ナンバー サイズになって、ホイールベースが2470mmから2550mmに延びて、日本仕様は車重1160kgに達している。サイズ拡大の善悪はこれらの数字だけでは判断できないにしても、車重ほぼ1トンに、エンジンは新開発の1.5リッター直列3気筒自然吸気で、最高出力120ps、最大トルク145Nmを発揮する。中低速トルクがゆたかで、ものすごく速いわけではないけれど、山道の上り坂でもよく走る。レッドゾーンの始まる6500rpmまでまわすと、それなりにうるさい。でも、そのうるささがガンバってる感につながっている。ナチュラルでハツラツとしている、と思える。でもって、乗り心地がしなやかで、それこそフランス車みたいである。試乗車はオプションの185/55R16を履いていたけれど、スタンダードは185/60R15なので、低速ではさらによいことが予想される。バネが比較的柔らかいので、ワインディングでは大きめのロールを許す。でも、そのロール スピードはゆったりとしているから、不安がない。ハンドリングはウルトラ シャープではないものの、素直で、好感が持てる。予想に反した動きをしないからだ。電動パワーステアリングのフィーリングも上々で、電動パワステであることを意識させない。ブレーキは前ディスク、後ろドラムながら、よく止まる。走る・曲がる・止まる、がよくできている。ギャラリーを見る15 Photosというように、たいへん好い印象を抱いて、私は試乗した翌日、新型ヤリスの開発陣とのスカイプ懇談会に臨んだ。今回の新型コロナウイルス騒動で、新型ヤリスの試乗会は中止になり、代わりに個別貸出とスカイプを使ってのエンジニアとの質疑応答に変更になった。諸般の事情で音声のみのインタビューとなったため、どなたが話しているかわからないことになってしまった。以下、末沢泰謙チーフエンジニアをはじめ、TC(トヨタ・コンパクト・カー・カンパニー=トヨタの社内カンパニー)製品企画部主幹の野々村真人氏、TC第1車両開発部主幹でシャシー担当の金子孝之氏、自動運転・先進安全開発部の実験(東富士)担当のグループ長の大森御幸氏の各氏の発言をすべて「トヨタ」で記しておきたい。私の疑問は、まず、ヤリス1.5 Z(6MT)はどういう位置づけのクルマなのか? という点だった。せっかくのMTモデルなのだから、もうちょっとスポーティに仕立てようとは考えなかったのか? たとえば、2速ギアでエンジンを7000rpmまでまわしてシフトアップすると、クラッチをつないだときにピョコタンと加速してしまう。こういうのはなんとかならないのか?つまり、私はまわしすぎていたわけだ。完成したホットハッチにすると趣味に走ることになって、ユーザー層を狭めることにもなりかねない、という意味のことを語るひともいた。考えてみれば、いや、考えてみなくても、次の質問。サスペンションはしなやかだけれど、初期のあたりは硬い印象を受ける。これエコ・タイヤに起因するのか?スプリングそれ自体は先代よりもソフトにしているという。次の質問は、フランスで生産することもあって、フランス車を意識したのかどうか?最後、価格について。試乗車で約180万円。オプションを含めると、230万円もする。最近の国産車が輸入車並みの価格になっているのは日本の人件費が上昇しているからか?チーフエンジニアの末沢泰謙さんは、電話での質疑の冒頭で、今回のヤリスの開発に際しての思いとして、コンパクト カーらしく軽快で、走りが楽しいこと、コンパクト カーでも安心・安全であるのにこだわったという。燃費ではハイブリッドで世界最高レベルを目指し、コンパクト カーなのに駐車支援システムを採用するなど、全方位的にがんばった。そのおかげで、いまどきマニュアルの小型ハッチバックがあらわれた。これこそ“カー・ガイ”豊田章男体制の充実ぶりを示すものだろうし、100年に一度の大変革期にあることの危機感が“やれることは全部やる”というもうちょっとシンプルに考えると、新型ヤリスは、“コンパクト カーはコンパクトだからいいんだ!”という、ごくごく当たり前の原理原則を守ってつくられた。そういうコンパクト カーが成功しないはずはない、と私は思う。文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)ギャラリーを見る15 Photos© Condé Nast Japan.