中国は「世界最先端のデジタルイノベーションを生みだす場所」になっている。そしてその勢いは、コロナ禍で停滞するどころか、ますます加速�
中国のオンライン・ショップ最大手アリババ、その創設者で会長であったジャック・マー氏は、昨年、1年後に引退することを表明していた。その約束通り、今週火曜、ジャック・マー氏は退任した。後任にはダニエル・ザング氏がceoに就任した。 (本記事は、永井竜之介氏の著書『人のマインドは、家庭や学校の教育を通じて幼少期から無意識のうちに養われていくものだ。日本に生まれて自然に年を重ねていけば、必然的に「マイナス回避」のマインドが身につく。親からも教師からも「人に迷惑をかけないように」と言われ、「(周囲と同じように)ちゃんと『いい子』になりなさい」と教えられる。「(周囲とは違う)変なことはしないように」「飛び出た杭にならないように」という教育が疑問なく行われる。だから、日本人のなかで「出る杭は打たれる」の固定観念は根深い。迷惑をかけないように、恥をかかないように、笑われないように、と様々なマイナスを回避しようとするマインドが、知らず知らずのうちに浸透している。一方、中国人が養っていくのは、プラス促進のマインドだ。中国では、「人にだまされないように」「下に見られないように」と教えられ、安易に周囲へ合わせるのではなく、確固たる自分自身を強く持つことがよしとされる。だから、自分なりの強みを見つけて高めていこうとする「出る杭は、さらに伸ばす」の価値観が強い。とくにベンチャー企業が飛躍的な成功を収めた2000年代以降、中国人のプラス促進のマインドはより一層強くなっている。その要因となっているのが、馬雲(ジャック・マー)氏というモデルケースの存在である。中国ベンチャーを代表するBAT3社のうち、B(バイドゥ)とT(テンセント)の創業者は、学歴・キャリアの高いエリート層といっていい存在だ。それに対して、A(アリババ)の創業者であるジャック・マー氏には、学歴もキャリアもなかった。彼は高校受験にも大学受験にも、就職活動にも失敗した。欧米への留学経験もなく、特別な血縁も強力な人脈もなかった。それでも、大学の英語講師という立場からわずか十数年で中国ビジネスのトップ、世界ビジネスのトップ10へ急激に成り上がった。中国において、出自・血縁・学歴はもちろん重要だが、ベンチャーが活躍する社会になったことで、「誰もが」「どこからでも」「どんな方法でも」成功を狙えるようになった。成功の種類も、成功への道のり・勝ち方も、数多く存在しているのが現在の中国であり、だからこそ中国人は自分なりの強みを伸ばすことに貪欲になれている。プラス促進とマイナス回避。この2つのマインドの違いは、プロダクトアイデアの発想を大きく変える。物事のプラスの面に注目し、良さ・強みをさらに高めていこうとするプラス促進のマインドだからこそ生みだせるイノベーションが、中国では次々に生まれている。ここでは教育と医療におけるイノベーションを紹介しよう。中国では教育系アプリサービスが広く浸透している。そもそも、中国の多くの学校には部活動がなく、朝から晩まで勉強漬けだ。日本とは比べ物にならないほど激しい受験競争が行われるため、学習第一の環境になっている。そのため、効率のよい学習をサポートしてくれるアプリの需要が高い。その1つがバイドゥのインキュベーション施設から生まれた「作業幇(ゾゥイェバン)」だ。2014年のサービス開始以来、1億人以上のユーザーを獲得している。最大の特徴は、「拍照捜題(パイジャオソウティ)」と呼ばれるAIサービスにある。これは、数学などの問題文をスマートフォンのカメラで撮影すると、画像を解析して自動で類似問題をデータベースから検索し、回答を提供してくれるものだ。その他、名門校志望者に向けた模擬テストやオンライン講義なども充実している。こうしたサービスは、マイナス回避で考えると、「学習プロセスをないがしろにする」「子どものためにならない」と非難され、学生と講師が顔を合わせる従来式の学習塾だけが残り続けることになるだろう。効率や生産性をより高める手段を追求するプラス促進のマインドが備わっているからこそ、教育というデリケートな分野においても、新たなイノベーションが輩出されている。教育よりもさらにデリケートな医療の場面でも、マインドの違いは顕著だ。医療分野は、世界のAI開発の最前線になっている。“ AI for everyone ”(すべての人のためのAI)を進めるグーグルがもっとも重要視している領域である。中国では、ベンチャーの平安健康医療科技(ピンアン・ヘルス&テクノロジー)を筆頭に、医療アプリの普及が加速している。同社のオンライン診療アプリ「平安好医生(ピンアン・グッドドクター)」は、提供開始から3年で登録者が2億人を超えた人気サービスだ。中国では、人口と比べて病院・医師の数が大きく不足しており、診察のために数時間待つことも珍しくない。だからこそ、待ち時間0のオンライン診療のニーズは極めて大きい。平安好医生は専属の医師約1,000名を抱え、24時間体制での診療サービスを提供している。加えて、これまでに蓄積した3億件以上の診断履歴や病歴などのデータに基づき、医師の診断をサポートするAIも開発した。このAIの初期診断を活用することで、医師の1日当たりの診察対応件数を、通常の5倍の500件にまで引き上げ、1日あたり37万件もの診察に対応している。提携する3,000以上の病院にはアプリで入院予約ができ、1万を超える提携薬局からは診察後1時間以内に処方薬が配送される体制を整えている。これもマイナス回避で考えれば、「万が一、誤審した場合の責任を取れない」「リスクが大きい」という声によって実現は困難になるだろう。しかし、中国では医師の診断をAIがサポートする医療が「新しい当たり前」になっていたからこそ、コロナウイルスの診断においても迷わずAIを活用することができた。こうしたイノベーションの実現に、プラス促進のマインドは不可欠となる。マイナス回避で敬遠することは簡単だが、それではいつまで経っても、教育や医療の現場に革新をもたらすことはできないだろう。『リープ・マーケティング』著者の永井竜之介 氏がウェビナーに登壇!富裕層が殺到!年利15.2%の有名ヘッジファンドに個人でも投資できる方法とは?-ヘッジファンドダイレクトコロナ禍でニーズ高まる!「人気放送作家」×「インフルエンサー」×「視聴者」で新たな番組作りに挑む映像配信プラットフォーム【2020年版】弁護士保険とは?比較して自分に合った保険を選ぼうなぜCFD取引が注目されるのか?不安定相場でのリスクヘッジとは関西初開催!「お金の貯め方、増やし方がその場で見つかる」西日本最大級の資産運用イベント名誉毀損とは?認められる要件や判例・慰謝料について知る投資信託はどう選ぶ?種類別に選び方を解説無料化の流れも‥投資信託にかかる各種手数料を徹底解説クラシックカー投資から美術品投資まで学べる資格とは?【新連載】ベストセラーを先取り!
キャンペーンタグ 9月10日、中国アリババ集団の創業者である馬雲(ジャック・マー)氏が、会長を退いた。この日はアリババ創業20周年の記念日であり、マー氏の55歳の誕生日であり、中国では「教師節(教師の日)」だ。もともと杭州で英語教師をしていた経験を持ち、これから教育慈善活動に向かいたいと語るマー氏にとって、ふさわしい退任日と言える。 アリババは1999年にマー氏が18人の仲間と共に立ち上げた。20年後の2019年3月期の売上高は前期比51%増の3768億元(約6兆円)。時価総額は世界7位の約50兆円に達した。 なぜアリババは、これほどの成功を収めることができたのか。中国の爆発的な内需拡大という追い風はあった。ビジネスモデルも優れている。「アリペイ」は中国をデジタル決済先進国へと押し上げた。そこで打ち出した信用スコアという考え方は、ともすれば公共の場でも自己中心的な行動に走りがちとされた中国人の振る舞いまで変化させた。 何よりもアリババとその他のネット通販企業を分けたのは、アリババがデジタル技術の価値を知り、投資を怠らなかったことだ。例えば、「双11(11月11日)」のセールの成功は、アリババのシステムに多大な負荷をかけ、システムはダウン寸前に追い込まれた。そこでアリババが採った方策は、データベースソフトを商用のものから内部開発したものに切り替えてシステムを再構築するというものだった。今年7月には独自開発のAI(人工知能)用半導体チップも公開している。自動運転や「つながるクルマ」にも取り組んでいる。 今やアリババはIT大手をしのぐソフトウエア開発の技術力を持ち、ビジネスモデルを磨き続ける中国有数の企業となった。そんな同社でも苦戦している分野がある。それが「海外」だ。 同社の19年3月期の中国小売事業売上高は2476億元なのに対して、海外は196億元にとどまっている。中国における成功やビジネスモデルをいかに海外に広げていくかという命題は、後任のダニエル・チャン(張勇)CEO(最高経営責任者)に委ねられた。 マー氏は引退に際し、アリババの社員たちに対して、ビジョンと社会に対する責任感を持ち続け、社会に貢献する企業であり続けるよう語りかけた。そのスピーチは高い志と説得力に満ちた内容だった。Powered by 参考になった参考にならなかったビジネストレンド [PR]ServiceNow Japan企業の「働き方」を変えるServiceNowFacebook Japan組織カルチャーDX宣言アマゾンジャパン全世界で年間売上高100億ドル超、出品のススメ!日経ビジネス電子版Special収益基盤として再注目!土地活用・賃貸経営のススメKPMGジャパン危機後の大再編時代、好機をとらえる海外M&A戦略日経ビジネス電子版Special誤った働き方改革では新時代に対応できないアサヒビール岸氏が分析!アサヒ ザ・リッチが快進撃を続ける理由Facebook Japan今後日本企業に求められる組織文化とはワイ・ディ・シー成長を加速させる物流システム「LogiWorks」Photosynth4000社が導入済み 遠隔ワークの新常識最新号2020年7月20日・27日号フェルディナント・ヤマグチの走りながら考えるViews小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明さまよう工場 米中分断時代を生きるViewsViewsデータから“真実”を読み解くスキルBooksフェルディナント・ヤマグチの走りながら考える「ぽっちゃり企業」が危機に強かったフェルディナント・ヤマグチの走りながら考える小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明Viewsデータから“真実”を読み解くスキルBooksもう一度読みたいフェルディナント・ヤマグチの走りながら考えるViews河合薫の新・社会の輪 上司と部下の力学藤中潤の「あなたに代わって調べます」フェルディナント・ヤマグチの走りながら考えるデータから“真実”を読み解くスキルViews小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明河合薫の新・社会の輪 上司と部下の力学Booksコロナ後の中国Views世界展望~プロの目Booksさまよう工場 米中分断時代を生きる「ぽっちゃり企業」が危機に強かった池松由香のニューヨーク発直行便大西孝弘の「遠くて近き日本と欧州」熱狂不動産、次の風景藤中潤の「あなたに代わって調べます」世界展望~プロの目池松由香のニューヨーク発直行便Views「ぽっちゃり企業」が危機に強かったコロナ後の中国Views世界展望~プロの目池松由香のニューヨーク発直行便外食ウオーズ日経ビジネス電子版のコメント機能やフォロー機能はリゾームによって提供されています。Copyright © 2020 Nikkei Business Publications, Inc. All Rights Reserved.各業界に精通した※日本ABC協会2018年度認証部数(ビジネス分野)有料会員限定記事各業界に精通した※日本ABC協会2018年度認証部数(ビジネス分野)「誌面ビューアー」は、紙の雑誌と同じレイアウトで記事を読むための機能です。ウェブブラウザーで読みやすいようにレイアウトされた通常の電子版画面とは異なり、誌面ビューアーでは雑誌ならではのビジュアルなレイアウトでご覧いただけます。スマートフォン、タブレットの場合は専用アプリをご利用ください。 「クリップ機能」は、また読みたいと思った記事や、後からじっくり読みたいお気に入りの記事を保存する機能です。クリップした記事は、メニューから「マイページ」を開き「クリップ」を選ぶと一覧で表示されます。 日経ビジネス電子版では、閲覧を制限している状態を「鍵が掛かっている」と表現しています。有料会員としてログインすると、鍵の有無にかかわらず全ての記事を閲覧できます。登録会員(無料)でも、月に一定本数、鍵付き記事をお読みいただけます。 記事の内容やRaiseの議論に対して、意見や見解をコメントとして書き込むことができます。記事の下部に表示されるコメント欄に書き込むとすぐに自分のコメントが表示されます。コメントに対して「返信」したり、「いいね」したりすることもできます。 記事末尾の「投票」ボタンを押すことで、その記事が参考になったかどうかを投票する機能です。投票できるのは1記事につき1回のみ。投票の結果はすぐに反映され、トップページの記事リストなどにも表示されます。評価の高い記事を選んで読むといった使い方ができます。 「この連載の続きが読みたい」「この議論の展開を見届けたい」と思った時に便利な機能です。「連載をフォロー」「シリーズをフォロー」は、その連載の新着記事が配信された際に、「議論をフォロー」は、その議論に新しいコメントがついた際に通知されます。