「死柄木さんが誰かを抱きしめて幸せになって笑って過ごせるのなら貴方の個性を私は奪いましょう。」 これは私のエゴだ。 私が彼にそうなって欲しいと言う願望だ。 私には個性を奪う個性がある。 The novel "奪う" includes tags such as "ヒロアカ", "夢小説" and more. インドア向けの趣味全般について綴っているブログです。
占いツクールとは? ログイン. 緑谷出久には夢がある。 かつて彼がまだ一桁の年齢であった頃、テレビで見た№1ヒーロー「オールマイト」を取り上げた特番番組。 彼がデビューした当時の映像を見てヒーローに強い憧れを抱いた彼は、母にねだってパソコンの動画配信サイトで何回もその映像を目にし、やがて将来は自分もこんなかっこいいヒーローになりたいと夢見るようになる。――――だが、その夢はあっさりと崩れ去ることとなる。 それは彼が4歳の頃。通常はそのくらいの歳にはその人それぞれの特殊な力。”個性”は発現するのだが、いつになっても個性が発現しない彼を不思議に思った彼の母親が医者に見せに行ったところ、彼が今では珍しい”無個性”の人間であることが発覚する。 それを知った時の彼の心を占める感情は、まさに「絶望」一色だったといっていい。医者は、無個性でも立派に生きている人はいると彼を慰めるが、しかし近くに優れた個性を持つ幼馴染がいたこともあり、彼のヒーローに対する憧れは、そんな医者の薄っぺらい親切心からの言葉であっさり諦められるわけがないほど強い想いとなっていたのだ。 だから彼は自分に個性が無いと知っても夢を諦めきれず、少しでも憧れのヒーローに近づくために、趣味も兼ねて様々なヒーローの解析分析を行った。 近くでヒーローが活躍しているとしればすぐに飛んで行って観察しメモをとり、お気に入りのヒーローに関する特番をやると聞けばテレビの前に齧りつく。 あらゆるヒーロー関連の雑誌を取り寄せスクラップブックを作って情報を整理し、常にヒーロー関連のサイトを巡って新しいヒーローの情報をチェックする。 そのような日々を送っていたために、彼は人一倍ヒーローに関する知識に詳しくなり、しかしそれと同時に新たなヒーローたちの活躍を耳にするたびに胸を躍らせ、その夢への想いをさらに強くしていった。 例え無理だと馬鹿にされても、不可能だと諭されようとも、彼は諦めず、いや|諦めきれず夢を追い続けた。 しかし、やはり個性がないヒーローなど考えられないのか。彼の夢を聞いた者はまずは冗談と思って笑い、次にそれが本気だとわかると考え直すように諭し、そしてそれでも考えを変えないと見ると、呆れてため息をつくか、彼の無駄な努力を嘲笑うようになる。 特に彼の幼馴染である爆豪勝己という少年はそれが顕著で、出久とは違い優れた個性を持ち、幼い頃から将来を嘱望され持て囃されてきた彼は、自然と他者を見下す性格になってしまい、昔は幼馴染だけありそれなりに友好的な関係を築いていたはずだが、無個性というわかりやすい他者に劣る面のある彼のことを「デク」と蔑み、嘲笑し虐げるようになっていた。 周りの人間全て、それこそ親でさえ叶うことが不可能だと確信している長年抱いていた彼の夢。しかし彼はそれでも自信の夢を諦めることはなく必死で前に進もうとしていたが、ある日そんな彼の心を折りかける出来事が起こる。 それは彼が長年研究していたヒーローたちのことが書かれていたノートを爆豪に焼かれてしまい、意気消沈して帰宅しようとしていた時のこと、突如ヘドロ状の個性を悪用する者 そのヒーローの名前はオールマイト。そう、彼がヒーローに憧れるきっかけとなった№1ヒーロー。 実は彼は有名なヒーローを多数輩出している名門校「雄英高校」の教師の一人として招かれており、そのために日本にやって来ていたのだが、偶然出久が襲われている場所の近くを通りかかり、それを感知したオールマイトが彼を助け出したのだ。 初めて憧れのヒーローに出会った彼は興奮してオールマイトに語る。自分はあなたに憧れてヒーローになりたいと思った。自分は将来あなたのようなヒーローになりたいと。 ……だが、そんな彼の言葉にオールマイトは冷たく返した。 『「個性が無くても成り立つ」とは、とてもじゃないがあ口にできないね』 実はオールマイトは五年前、あるヴィランの襲撃にあい呼吸器官半壊に胃袋全摘の重傷を負っていた。 一命は取り留めたのだが、度重なる手術と後遺症で憔悴してしまったオールマイトは、その活動限界を大幅に削られてしまい、今では彼がヒーローとして活動できるのは一日三時間ほどにまで落ちてしまったのだ。 しかし平和の象徴として知られたオールマイトは悪に屈してはならないと、彼はいつ命を落としてもおかしくないその状況の中でも、まるで苦しい様を見せずに戦い抜いた。ヒーローとしてのプレッシャーや内から出る恐怖をその笑顔の裏に隠して。 だからこそ出久にかけられたその言葉は重かった。――――長年誰に言われても諦めなかった彼の夢にかける想い。その想いをぽっきりと折ってしまうほどに。 ☆ ☆ 「はァー……」 長いため息を吐きながら、街の公園のベンチで項垂れている彼は緑谷出久。ヒーローに憧れる今時の少年だ。 彼は無個性でありながらヒーローに憧れ、今までどんな人に諦めなさいといわれても、お前では無理だと嘲笑われてもその想いを胸に抱いて彼なりに必死でがんばってきたのだが、しかし長年憧れていたオールマイトからそれは不可能だと否定されてしまった彼は、意気消沈しながらもこのまま帰っては母に何事かあったと心配されてしまうと無意識に考え、こうして近所の公園で落ち着くまで帰宅の時間を延ばしているというわけだ。 「(はあ。やっぱり僕にヒーローなんて無理だったんだなあ)」 とそこで、彼はふと手元の焼けかけたノートに視線を下ろす。 幼馴染である爆豪に焼かれてしまったそのノートは、彼が将来ヒーローになるために様々なヒーローを研究してきた成果の一部が書かれており、出久が急いでノートに燃え移っていた炎を消したために、あちこち煤で汚れていたり焼け焦げていたりしてはいるが、未だノートの形をちゃんと残していた。 それを見た出久は、今までどんなに馬鹿にされてもそれでも可能性は0ではないと諦めず、立派なヒーローになって活躍する自分の姿を夢想した彼は必死で頑張って来た今までのことを思い出し、自信のその瞳から涙が滲んでてくるのを感じた。 それを彼は必死に抑える。 「(泣くな!わかっていたことだろ!?現実さ……。わかってたから…必死こいてたんじゃないか……ッ!!見ないように。見ないように――――――って)」 その後しばらく名残惜しそうにノートを眺めていた出久であったが、やがて決意を決めたのか唇を強く噛みしめながらも立ち上がると、勢いよくそのノートを公園のゴミ箱に叩きつけるように捨てると、その場を去ろうとした。 その時だった。 「……ほう、これはすごいな」 ――――その声が聞こえてきたのが。 「……?」 決して大きくはないが、どこか惹かれるものがあるその声に、不思議に思った出久がその場で振り返ると、そこにはいつの間にいたのか、杖を持ちどこか品のいい服をした、紳士然とした中年男性がそこに立ち、出久がゴミ箱に捨てたはずのノートにおもしろそうに目を通していた。 まさか自分が捨てたノートをわざわざゴミ箱から拾って読む人がいるとは思わず、出久は驚きでその場に硬直していたのだが、そんな彼の視線に気づいたのか、その男性はふと視線を上げるとそこで初めて出久がこちらを見ていることに気づいた。 出久の姿を視界に収めた男性は、朗らかに笑いながらも、どこか申し訳そうにしながらもどこか親しげに出久に話しかける。 「おお、すまない。先ほどから君が大事そうにこれを持っているのを見ていてね。あれほど大事そうにしていた物を捨てるなんていったいどんなことが書いてあるんだろうとどうしても気になってしまって」「は、はあ……?」「だが、すごいなこれは。オールマイトのようなベテランヒーローから始まり、シンリンカムイのような最近活躍しているルーキーたちまでよく研究されている。私もヒーローマニアの一人だからわかるが、これほど細かに研究するには、よほどの熱意と長い時間が必要だっただろうに」 その言葉で出久は気づく。目の前の彼もヒーローたちの活躍に胸躍らせる自分と同じ種類の人間であることに。 そのことに気づいた出久は、長年大切にしていたノートを誰かに託すのに一瞬躊躇したが、どうせ捨てようと思っていた物だし、しばらくヒーローに関係する物は見たくないと口を開く。 「……そんなに気に入ったならあげますよそれ」「それはありがたいが、いいのかい?先ほどもいったがかなり大切な物のように見えたが?」「ええ。僕にはもう必要ない物ですから」 そこで出久は男性に今までのことを話しだす。 幼いころ見たオールマイトの映像がきっかけでヒーローに憧れを抱いたこと。しかし無個性に生まれてしまったためにそれは無理だと周りから言われ続けたこと。だが諦めきれずにいろんなヒーローの研究をしながらヒーローになるため必死になっていたこと。だがヒーローに憧れるきっかけとなったオールマイトに出会い、無個性でプロのヒーローになることなんてできたいといわれた等々。 なぜ初めて会った男性にこんなに自分のことを話しているのか、出久は自分でもわからない。それは男性が聞き上手なためか。それとも男性から感じる不思議な魅力のせいなのか。 そして出久が全てを話し終わると、男性は神妙な顔で何か考え込むような仕草を見せるが、やがてその顔を上げると穏やかな笑みを浮かべる。 「なるほど、それは大変だったね。君の気持ちがわかるとは決していえないが、それでも君がよほどの葛藤を経てその夢を諦めんとしていたことはなんとなく理解できる」「……ありがとうございます。でもいいんです。オールマイトのいうとおり、無個性の人間がプロのヒーローになるのは無理なことぐらい、最初からわかっていたことですから」 そう、だからこれからは身の丈に合った生き方を探さなくては。 未だ未練はあるが、出久はそう考え無理やり夢を諦めようとした。 しかし、そんな彼をしばし無言で眺めていた男性は、何を思ったのかとんでもない言葉を口にする。 出久のその人生を変えるとんでもない言葉を。 「――――もし、強力な個性を 「……え?」 男性のその予想外すぎる言葉に、出久は一瞬言葉に詰まりながらも呆然と言葉を返す。 何の悪い冗談か。そんなものがあれば自分はここまで悩みはしないと思いはしたが、男性のこちらを見つめる真剣な顔からそれがただの冗談でないことが理解できた。 そんな出久の考えを理解したのか、男性はそのまま言葉を続ける。 「実は私はこうみえても医療関係の仕事に従事していてね。君みたいにヒーローに憧れてはいるが、無個性なため。もしくは個性がヒーロー向きではないために泣く泣くその夢を諦めた子供は結構な数いるんだ。――――私はそんな彼らのために人工的な個性を発現させる、もしくは個性を強化することができる技術を開発したんだ」「……まさか、そんなことどこのニュースにも」「そりゃあ、できたばかりの技術だからね。それに安全性も確実に確保されているわけではない」 と、そこで男性は出久に向かって手を差し伸べる。 「さて、それでどうする。この機会を逃せば一般人の君がこの手術を受けるには莫大な金と時間がかかる。だが、今この手を掴めば、確かに危険はあるが君は間違いなく憧れたヒーローになれるだろう。――――それこそ、あのオールマイトのように!!」「………」 男性の言葉に出久は考える。 「(……物凄く胡散臭いな、この話)」 確かに出来上がったばかりの技術ならばニュースで取り上げないのも頷けるが、しかしそのような技術が開発されているのならばネットなんかの噂くらいにはのぼるはずだ。 だが出久はそのような話を一切聞いたことはないし、そもそも個性とはそれぞれ生まれついての物。それが後付けできる物だとは彼には思えなかった。 「(……だけどもしこの話が本当なら、僕も皆みたいに個性を手に入れることができる。そしたらオールマイトみたいなすごいヒーローになれるかもしれない!!)」 ……もし、彼が普段どおりの彼ならば、こんな妖しい話には決して乗らなかっただろう。 だが、今の彼は今までの頑張りの成果の一つであるノートを燃やされ、幼馴染の爆豪に自身の夢を嘲笑われ、憧れのオールマイトからはヒーローになれる可能性を完全に否定されてしまった。 そのために彼にはその手が天からの救いの手のように思え、思わずといった感じで男性の手をとってしまう。 「そ、それじゃあ、どうかよろしくお願いします」「うむ、私に任せなさい」 出久の言葉に、優しげに笑う男性の姿を見て、出久はこの人なら任せられると、安心したようにほっと笑みを浮かべる。 だが、彼は気づかなかった。その男性の瞳の奥がこの世の全ての暗い感情を詰めこんだような、妖しい光を放っていたことに。 もし、歴戦のヒーローであるオールマイトが、その光を見たら間違いなくこう断言するだろう。 ――――この男こそ「巨悪」であると。 ☆ ☆ その後、折寺中学校の生徒の一人である緑谷出久が突如失踪したというニュースがお茶の間に流れることとなる。 警察は、出久が今まで自身の夢を周りに否定され続けていたことを聞き、夢に挫折したことによる自殺も視野に入れて捜査を続けていたが、どうしてもその姿が見つからないために捜査は打ち切りとなり、自然とニュースには取り上げられなくなってしまった。 しかし、一度その姿を消した彼は約十カ月後、彼は雄英高校にその姿を現した。 『き、君は!?』『――――お久しぶりです、オールマイト』 ヴィランの一人。対オールマイト用に造られた「改造人間」の一人として。 ☆ ☆ ■緑谷出久 この小説の主人公にして原作主人公。 原作では無個性でありながらも、№1ヒーローであるオールマイトにその勇気を認められ、彼の個性を受け継ぎヒーローの道を歩み始めるが、しかしこの小説ではその展開になる前に、とある人物に出会い、人工的に強力な個性を発現する技術があると仄めかされ、その手術を受けることに。 しかし、その人物とは実はヴィランたちの黒幕的人物であり、彼のノートを見たその黒幕が、彼の力への執念。そしてヒーローたちを研究し尽くしていることをしり、元々オールマイトに対抗するために作ろうとしていた脳無という改人へと使おうとしていた技術を応用し、彼にオールマイトに匹敵する力を与えると同時に洗脳し、彼のヒーローたちに対する知識量も合わさって、最強の対ヒーロー改人としてオールマイト達の前に現れる。 イメージとしては、ショッカーに改造手術を施され、そのまま正義の心に目覚められなかった(保てなかった?)仮面ライダー。 ■紳士然とした中年男性。 実はオールマイトに匹敵する(少なくとも弱った彼相手には対抗できる程度の力はある)改人を造る技術を生み出したヴィラン連合の真の黒幕。原作で死柄木弔を悪のカリスマに育て上げようとした人物を勝手にイメージした。 偶然公園で苦悩している出久の姿を見つけ、彼の力への執念。さらには自分よりヒーローたちのことをよく研究していることを知り、これは力さえ与えれば使えると、原作で脳無を作り上げた技術を応用し、出久を最強のヴィランとして改造した。